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東京高等裁判所 平成3年(ネ)2958号 判決

第二九五八号事件控訴人・第二九七四号事件被控訴人(以下「一審被告」という。)

堀雄登

右訴訟代理人弁護士

古閑孝

第二九五八号事件被控訴人・第二九七四号事件控訴人(以下「一審原告」という。)

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

藤井英男

藤井一男

主文

一  一審被告の控訴を棄却する。

二  一審原告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  一審被告は、一審原告に対し、金一〇三六万二七五二円及びこれに対する昭和六三年七月三一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  一審原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その二を一審原告の、その余を一審被告の各負担とする。

四  この判決は、第二項1に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(一審原告)

1  一審被告の控訴を棄却する。

2  原判決主文を次のとおり変更する。

3  一審被告は、一審原告に対し、金一五〇〇万円及びこれに対する昭和六三年七月三一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え(請求の減縮)。

4  訴訟費用は、第一、二審とも、一審被告の負担とする。

5  仮執行宣言

(一審被告)

1  一審原告の控訴を棄却する。

2  原判決を取り消す。

3  一審原告の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも、一審原告の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

(一審原告)

一  一審原告が被った傷害の部位、程度についての従来の主張(原判決三枚目裏一〇行目から同四枚目表七行目の末尾まで)を、原審口頭弁論終結後の事情を加えて次のとおり改める。

「一審原告は、本件事故により、第一腰椎粉砕骨折、腰髄損傷の傷害を受け、その治療のため、昭和六三年七月三一日から同年一〇月二九日までの九一日間、筑波メディカルセンター病院において入院治療を、平成二年一一月一九日から同月三〇日までの一二日間、同病院において脊椎固定器具抜去手術のための入院治療をそれぞれ受け、昭和六三年一〇月三一日から平成二年一一月一八日までの間、更に同年一二月一日から現在に至るまで総泉病院、東京厚生年金病院等でそれぞれ通院治療を受けている。

また、一審原告は、入院治療の際の輸血が原因となってC型肝炎に罹り、平成四年三月二七日から同年四月一九日までの二四日間、東京厚生年金病院において入院治療を受けたが、以後三二二日(四六週)間にわたり、右疾病のため通院治療を要するものと診断された。一審原告のC型肝炎罹患は、本件事故による傷害の治療のために行われた輸血を原因とするものであり、当時の医療実務において輸血が原因で右のような肝臓疾患を生ずることは必ずしも特異なことではないから、一審原告が右疾病に罹ったことと本件事故との間には法的な因果関係が存するというべきである。」

二  一審原告が本件事故により被った損害についての従来の主張(原判決六枚目裏八行目の冒頭から同九枚目裏四行目の末尾まで)を、原審口頭弁論終結後の事情を加えて次のとおり改める。

「一審原告は、本件事故により、少なくとも(将来の治療関係費を除き)次のとおり合計金二四〇六万五六三四円の損害を被った。

1 入院雑費 金一五万二四〇〇円

一日当たり一二〇〇円で入院期間一二七日分

ただし、うち金一二万三六〇〇円を請求する。

2 医療品費用 金一二万九三六〇円

第一回の退院後である昭和六三年一〇月三〇日から平成二年一〇月二九日までの一二か月間と、第二回の退院後である平成二年一二月一日から平成四年三月三一日までの一六か月の合計二八か月間における一か月当たり四六二〇円の割合による排尿・排便用の減菌手袋(一か月当たり金二〇〇〇円)、カテーテル(一か月当たり金五〇〇円)、ゼリー(一か月当たり金五〇〇円)、携帯用殺菌袋(一か月当たり金一六二〇円)の購入代金合計額。

ただし、うち金一二万〇一二〇円を請求する。

3 休業損害 金四九万五三四四円

右請求額算定の根拠となる事情は、原判決事実摘示(七枚目表末行の冒頭から同裏八行目の末尾まで)のとおりである。

なおC型肝炎の罹患に伴う休業損害は請求しない。

4 逸失利益 金一七五二万〇七九九円

右請求額算定の根拠となる事情は、原判決事実摘示(七枚目裏一〇行目の冒頭から八枚目裏七行目の末尾まで)のとおりである。

ただし、うち金一七〇三万八七九三円を請求する。

5 慰謝料 金五八三万七七七七円(後記(一)と(二)の合計額)

(一) 入通院慰謝料 金二三五万円

入院期間は、本件事故による傷害治療のための昭和六三年七月三一日から同年一〇月二九日までの九一日間と平成二年一一月一九日から同月三〇日までの一二日間及びC型肝炎治療のための入院期間として平成四年三月二七日から同年四月一九日までの二四日間の合計一二七日、約4.2か月間であり、通院期間は、本件事故による傷害の治療のための昭和六三年一〇月三一日から症状固定前の平成五年五月三一日までの二一三日間及びC型肝炎治療のための通院期間として平成四年四月二〇日から三二二日間であり、その合計は五三五日、約17.8か月間である。

(二) 後遺症慰謝料 金三四八万七七七七円

右請求額算定の根拠となる事情は、原判決事実摘示(九枚目表四行目の冒頭から同六行目の末尾まで)のとおりである。

(三) 右(一)及び(二)の合計額のうち、金五二八万七七七七円を請求する。

6 弁護士費用 金一〇〇万円

右請求額算定の根拠となる事情は、原判決事実摘示(九枚目表八行目の冒頭から同一〇行目の末尾まで)のとおりである。

よって、一審原告は本訴により、右1ないし6の合計額である金二四〇六万五六三四円のうち金一五〇〇万円及びこれに対する昭和六三年七月三一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める(請求の減縮)。」

(一審被告)

一審原告の損害についての主張はすべて否認する。

三 証拠〈省略〉

理由

一請求原因1(当事者)及び2(事故の発生)のうち(一)ないし(三)は、当事者間に争いがない。

二請求原因3(一審原告が受けた傷害)、同2のうち(四)(本件事故の態様)、及び同4(一審被告の責任)についての当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示(原判決一一枚目裏一行目の冒頭から同一七枚目表二行目の末尾まで)のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決一一枚目裏三行目の「第一〇号証(原本の存在も認められる)」を削り、同四行目の「一七号証」を「第一七、第二一号証」と改め、その次に続けて「、同結果により原本の存在とその成立の認められる甲第一〇号証」を加え、同末行の「総泉病院において」を「総泉病院及び東京厚生年金病院において」と改め、同一二枚目表七行目の「可能であるものの、」の次に「間歇性破行、時々足がつる、腰痛などの症状があるため、」を加え、同行目の「強く」を「激しく」と改め、同一二枚目裏二行目の次に改行の上、次のとおり加える。

「一審原告は、前記傷害の治療のため手術を受けた際、輸血が原因となってC型肝炎に罹ったが、このことと本件事故との間には相当因果関係があると主張し、東京厚生年金病院所属医師の診断書(〈書証番号略〉)によれば、昭和六三年九月ころ同病院に入院中輸血後肝炎が出現し、一か月程度の床上安静を要したこと、平成四年三月二七日から同病院に入院し、検査の結果C型慢性肝炎と診断されたことが認められる。しかし、右肝炎と本件事故との間に相当因果関係を認めうる証拠はない。」

2  原判決一二枚目裏四行目の「第一号証」を削り、同五行目から六行目にかけて及び九行目の「存在及び」の次に「その」を各加え、同六行目の「第一二号証、」を削り、同行目の「乙第二号証」を「乙第二、第九号証」と改め、同一三枚目表六行目の「早速、」を「早速入会金二〇万円のうち一万円を支払い(残金はその後支払った。)」と改める。

3  原判決一四枚目裏九行目から一〇行目にかけての「有するものであって、」を「有し、機体は前脚一輪と後脚二輪によって支えられており、操縦者は後脚の中間に設けられた背もたれだけが付いた座席に座り、」と改め、同一五枚目表四行目の「ものである」を「ものである上、墜落、衝突等の事故に際しては、その衝撃が直接操縦者の身体に加わる虞れがある」と改め、同裏七行目の「原告は、」の前に「本件操縦機は、その前脚部のブレーキがアルミ板でできているため、それが鉄板でできていて一審原告がその直前まで使用していた機体と比較して、前脚部が約1.5キログラム軽いものであったが、」を加える。

4  原判決一六枚目表一〇行目の「原告の飛行訓練中、」を「一審原告は、操縦訓練を始めてからまだ四日目の初心者であり、訓練二日目の七月一〇日には、前記(1(二))のとおりスロットルの調整ができずに失速し、ハードランディングをしてプロペラ等を壊す事故を起こしているのであるから、同人の指導については特に注意を払い、同人の飛行訓練中」と改める。

三請求原因5(一審原告が被った損害)及び抗弁(過失相殺)についての当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示(原判決一七枚目表三行目の冒頭から同二一枚目表二行目の末尾まで)のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決一七枚目表九行目の「医薬品費用」から同裏七行目の末尾までを次のとおり改める。

「医薬品費用 金一二万九三六〇円

一審原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、一審原告は排便排尿のための器具等として、第一回の退院の後である昭和六三年一〇月三〇日から平成二年一〇月二九日までの一二か月間と、第二回の退院の後である平成二年一二月一日から平成四年三月三一日までの一六か月間の合計二八か月間、一か月当たり四六二〇円の割合による排尿・排便用の減菌手袋(一か月当たり金二〇〇〇円)、カテーテル(一か月当たり金五〇〇円)、ゼリー(一か月当たり金五〇〇円)、携帯用殺菌袋(一か月当たり金一六二〇円)の購入代金として請求額の一二万〇一二〇円を超える金一二万九三六〇円を支出したことが認められる。」

2  原判決一八枚目表七行目の「金一七〇三万八七九三円」を「金一七五二万〇七九九円」と改め、同裏九行目の「次のとおり、」の次に「請求額の一七〇三万八七九三円を超える」を加え、同一〇行目の「認めることができ、」から同一一行目の末尾までを次のとおり改める。

「認めることができる(一審被告は、逸失利益算定に当たり、労働能力喪失率に乗じられるべき基礎となる収入は、賃金センサスによる男性労働者の平均給与額ではなく、一審原告が現在得ている給与額とすべきであると主張する。しかし、後遺障害による逸失利益の算定の基礎となる労働能力喪失率は、人の労働能力を一般的、抽象的なものとして捉え、喪失の程度を右の喪失率という一定の割合によって確定するものであるから、これに収入を乗じて逸失利益を算定するという方法で損害賠償額の算定を行う場合においては、右収入の額は、損害賠償算定時における人の稼働能力の一般的、抽象的表現としての統計上の平均給与額によるのが合理的である。このことは、後遺障害によりある種、ある程度の労働能力を喪失した者が、差し当たり現在就いている仕事には差し支えがなくしたがって現実に減収とはならないが、将来別の仕事に就こうとしたとき(現在の就業状況下では、そうした可能性が一般に低いともいえない。)に、当該後遺障害が残存するためにその仕事によっては全くそれができないというような場合を想定すると、前記趣旨の労働能力喪失率を逸失利益算定の基礎として採用しながら、他方特定の被害者が事故当時において現実に得ていた特定の給与等の収入額を基準とする方法を採用するということでは、逸失利益の額が適正に算定されているとはいえず、損害賠償制度の趣旨からみて相当でない結果を生ずることからも明らかであろう。)。」

3  原判決一九枚目裏七行目の全部を「以上認定にかかる一審原告の損害額の合計は金二三五五万六八八〇円となる。一審原告は前記のとおり、医薬品費用及び逸失利益につき右認定額よりも下回る額の請求をしている(一部請求)が、同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上及び精神上の損害の賠償請求は一個の訴訟物を構成し、全体として過失相殺の対象となるものと解すべきである。」と改める。

4  原判決一九枚目裏九行目の「前掲乙第一〇号証、」の次に「成立に争いのない甲第一号証、原本の存在及びその成立に争いのない甲第一二号証、」を加え、同二〇枚目表一行目の「原告は、」の次に「当初は一審被告がスポーツ雑誌に掲載した本件クラブの広告を見て飛行への夢をかきたてられ、昭和六三年七月九日前記のとおり本件滑走場を訪れたが、そこで一審被告の説明を聞き、また同人操縦の超軽量動力機に乗せてもらって、その構造、操縦方法のあらましとこれに伴う危険発生の蓋然性について一応の知識を得、」と改め、同裏二行目の「あったこと、」から同三行目の「認められる。」までを「あったことが認められるのであり、そうすると、結局、本件事故原因の相当部分は一審原告の操縦未熟にあるというべきである。」と改める。

5  原判決二〇枚目裏四行目の冒頭から同五行目の末尾までを次のとおり改める。

「そうすると、一審原告自身にも本件事故発生について過失があり、右過失は過失相殺の原因となりうるものである。そこで、一審原告及び一審被告の各過失を比較勘案すると、一審原告が本件クラブに入会当時及びその後訓練を受ける過程において、超軽量動力機による飛行ないし飛行訓練に伴い生じうる危険につき予見し、またその認識を深めえたにもかかわらず、初歩的段階での操縦技量がまだ未熟であるうちから積極的に高度の技量を要するジャンプ飛行を繰り返し、ついに本件事故を招致したものであって、その過失は相殺割合の過半を占めるものというべきである。しかし、他方一審被告においても、超軽量動力機についてまったく知らない初心者である一審原告を本件クラブに入会金等を徴して入会させ、自己が所有する超軽量動力機を供与して飛行訓練を行わせ、操縦技量を習得させるための指導をしていたのであるから、操縦技量が未熟な一審原告の生命、身体の安全への配慮として、本件操縦機の性能、操縦上の注意につき十分な説明を行うとともに、危急の場合には適時に適切な指示を与えるべきであったのに、そのいずれについても前記のような手落ちがあったのであって、このことは、損害賠償額の算定に当たり無視しえない要因をなすというべきであるので、両者の過失の割合は、一審原告六、一審被告四とするのが相当である。」

6  原判決二〇枚目裏七行目の「金六九一万九六九〇円」を「金九四二万二七五二円」と改める。

7  原判決二〇枚目裏末行の「一割である金七〇万円」を「約一割に相当する金九四万円」と改め、同二一枚目表二行目の「合計金七六一万九六九〇円」を「金一〇三六万二七五二円となる(この額は、一審原告の請求額に達しない。)」と改める。

四以上のとおりであって、一審原告の本訴請求は、不法行為に基づく損害賠償として金一〇三六万二七五二円と、これに対する不法行為の日である昭和六三年七月三一日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるのでこれを認容すべきであるが、その余は理由がないので棄却すべきである。よって、一審原告の控訴に基づき原判決を右の限度で変更し、一審被告の控訴を棄却し、仮執行宣言につき民事訴訟法一九六条、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条、九二条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官伊藤滋夫 裁判官伊東すみ子 裁判官水谷正俊)

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